『パラノイア』紹介 ブラックユーモアRPGの最高傑作、『パラノイア』をご紹介しましょう。他に類を見ない斬新なコンセプトに貫かれた作品で、10年以上前にデザインされたにもかかわらず米国では今日なお絶大な人気を誇る、まさに時代を越えた不朽の名作と言えます。海外RPGに興味があるなら、これを避けて通ることは出来ないでしょう。
この紹介文は、パソコン通信 "Nifty-Serve" 内の"RPGフォーラム"において、西尾弦一(Genich!)氏が連載したものです。一読すれば、きっとあなたのRPG観が変わることでしょう。
PARANOIA紹介 第一回
ちょうど10年前に WEST END GAMES から発売された PARANOIA という RPG が
あります。なかなか変った RPG でして、遠未来ディストピアとブラックユーモ
アを主題にしているのですが、すっげー面白い。
というわけで、紹介を。まずは舞台設定から。
"paranoia" という単語は、妄想狂という意味です。「宇宙からの電波が聞こえ
る」「あいつは俺を殺そうとしていて、水道の水には毒が混ぜられている」の類。
そしてゲームの内容も、また、このタイトルにふさわしいものに。
このRPGの舞台は、西暦2291年、全てをコンピュータに管理された核シェルタ
ー型の巨大都市、Alpha Complex が舞台です。
この Alpha Complex は完全なユートピアです。人々はみな幸福に暮らしてい
ます。いえ、正確に言いましょう。「人々はみな幸福に暮らしている」と、コン
ピュータは信じています。
ひっじょーに困ったことに、この、Alpha Complex を管理しているコンピュー
タは、狂っています。そう、こいつこそパラノイアであり、妄想に苛まされてい
るのです。つまり Alpha Complex は、実際のところは、悪夢のようなディスト
ピアに他なりません。
コンピュータは、Alpha Complex の外は、悪の共産主義者がうようよしている
と信じています。彼らは Alpha Complex の破壊を目的としているのです。その
ためコンピュータは、都市外壁の扉を閉ざし、外部との連絡を絶ちました。その
ため Alpha Complex の市民達は、生まれてから一度も都市の外に出たことがあ
りません。
さらにコンピュータは、Alpha Complex の市民達の中にも反逆者が混じってい
る、と信じています。彼らは共産主義者と通じていおり、Alpha Complex の破壊
を目論んでいます。彼らは忠実な市民に化けています。反逆者を見つけだし、処
刑しなくてはなりません。
コンピュータは市民が幸福に暮らすために必要なものすべてを提供しています。
コンピュータは市民の友人であり、コンピュータは常に市民のことを考えている
のです。正確には、コンピュータは自分でそう信じています。
したがって、市民はみな幸福でなければなりません。もし幸福でないとしたら、
それこそ反逆者である証拠です。
コンピュータは折りに触れて市民に質問します。
(コンピュータ) 「市民、あなたは幸福ですか」
(市民) 「もちろんです、コンピュータ。幸福でいることは市民の義務です」
付け加えれば、コンピュータの言うことは常に正し� �、と、コンピュータ自身
は信じています。ですから、コンピュータの言うことに疑いを持ったり、コンピ
ュータの言ったことに従わない市民は、反逆者です。そのような市民は、ただち
に処刑されます。
「ひ、ひどいディストピアだ」と思いましたか? うんうん、そうでしょう。し
かし、実はこれまだ序の口です。
PARANOIA においては、ゲームマスターがコンピュータを、プレイヤー達が市
民を演じます。コンピュータの設定というのはだいたい上のようなもんですが、
実はPCの設定というのが輪をかけて凄い。
というわけで次回は、PC の立場について説明します。
PARANOIA紹介 第二回
PARANOIA 紹介の第二回目です。今回と次回は、PC について説明しましょう。
Computer:「ようこそ、トラブルシューター」
PC: 私のことですか?
Computer:「その通りです、市民。PARANOIA においては、PC はみな"トラブル
シューター"(Troubleshooter)です」
PC: トラブルシューターとは何ですか?
Computer: 「トラブルシューターは、コンピュータに仕える忠実な市民です。コ
ンピュータの命令を受けてチームを組み、ミッションを遂行します」
PC: ふむふむ
Computer: 「それと、命令された任務とは別に、常に心掛けておかねばならない
ことが一つあります」
PC: なんですか?
Computer: 「反逆者を発見し、報告し、場合によってはその場で処刑することで
す」
PC: 反逆者?
Computer: 「親友であるコンピュータを裏切り、Alpha Complex を破壊しようと
企む、悪意ある連中のことです。彼らは忠実な市民に化けており、
陰謀を巡らしています。反逆者を見つけだし、これを処刑しなけれ
ばなりません」
PC: ふむふむ
Computer: 「全てのミュータントは反逆者です。市民はみな遺伝的に完璧であり、
この Alpha Complex はそうした完璧な人間のみに許されたユート
ピアです。遺伝子的に欠陥を持ったミュータントは、見つけだされ、
根絶されなければなりません」
PC: なるほど。私もミュータントを見つけるべく努力します
Computer: 「秘密組織に参加している者もみな反逆者です。コンピュータに公式
に認められていない組織はみな秘密組織であり、それに参加する者
はコンピュータに対し陰謀を巡らしていると判断されます。かよう
な反逆者は、やはり狩り出され処刑されなければなりません」
PC: だいたいわかりました。私は、反逆者、ミュータント、秘密組織の人
間を見つけだし、処刑すればよいのですね。
Computer: 「その通りです、市民! Serve the Computer! Computer is your
Friend!
ところで市民、あなたはミュータントです。また同時に、秘密組織
のメンバーでもあります」
PC: は?
Computer: 「トラブルシューター達は、みなあなたの反逆者としての正体を暴き、
処刑しようとするでしょう。彼らはみな強力な武器を携帯していま
す」
PC: ちょ、ちょっと待ったー
Computer: 「なんですか、市民」
PC: 整理させてください。私はミュータントで、秘密組織のメンバーで、
つまるところ反逆者。トラブルシューター達はみな私を捕らえようと
している
Computer: 「その通りです、市民」
PC: それにコンピュータ、あなたは先程「チームを組んで」と言いました
よね。私は他のトラブルシューターと一緒に行動するわけですよね。
Computer: 「市民、あなたの理解力は賞賛に値します」
PC: するとなんですか、パーティの残りのPCは全員私を処刑しようとして
いるわけですか?
Computer: 「正確にはそうではありません。彼らは"反逆者"を見つけだして処
刑しようとしているだけです。彼らはまだ、あなたがミュータント
であることも、秘密組織に参加していることも知りません」
PC: それがバレると処刑されるわけですか
Computer: 「そうです。しかし、もしあなたが彼らより先に、彼らが反逆者であ
る、ということを暴けば、処刑されるのは彼らの方です。あなたは
生き残れるでしょう。
ただし、虚偽の告発は、それも反逆です。確実な、あるいは一見確
実な証拠を掴まねばなりません」
PC: なるほど。私が先に彼らの反逆の証拠を掴めば生き残れる。そうでな
ければ私が死ぬ、と
Computer: 「素晴らしい。その通りです、市民。
ところで、死人は自分の無実を証明できません。ですから、まず先
に撃ち、質問はそれから、というのは、賢いやりかたです。もちろ
ん、相手もそうしてくるでしょうが。
Stay Alert! Trust no one! Keep your laser handy!」
PC: あのう、すごく基本的な質問をしてよろしいでしょうか?
Computer: 「なんですか、市民」
PC: それって、楽しいんですか?
Computer: 「もちろんです、市民! コンピュータがそう言うのですから、それは
正しいのです。
コンピュータを疑うことは反逆です。あなたは疑いますか?」
PC: め、滅相もない
Computer: 「よろしい、市民。
ところで、コンピュータはトラブルシューター達の力量をよく勘案
し、十分な装備を与え、適切なミッションを与えます。ですから、
トラブルシューターがミッションに失敗することはあり得ません」
PC: ううむ、本当ですか?
Computer: 「コンピュータがそう言うのです。疑うのですか?」
PC: い、いえ、とんでもない
Computer: 「よろしい、市民。ですから、トラブルシューター達がミッションに
失敗したとしたら、それは彼等が反逆者だったということです。よ
ろしいですね?」
PC: あのう、私はミッションを受けることを辞退したく思うのですが…
Computer: 「市民、コンピュータに奉仕することは市民の幸福です。これを幸福
に思わないということは、反逆者である明白な証拠です。
さて市民、あなたは喜んでミッションを受けますか?」
PC: も、もちろんです。いかなるミッションでも命じてください。コンピ
ュータに奉仕することは私の大いなる喜びです。
Computer: 「しかし、ミッションに失敗したとしても、逃げ道はあります」
PC: ぜ、ぜひそれを教えてください
Computer: 「パーティの中に一人反逆者がいたとすると、彼一人が様々な破壊
工作を行い、ミッションの達成を妨害するでしょう」
PC: なるほど。そうでしょうね。
Computer: 「まだ気付きませんか?
任務に失敗して帰還してきた時点で、パーティの中に誰も反逆者が
見つかっていなかった場合と、誰か一人が反逆者だと明らかになっ
ていた場合を比べてみなさい」
PC: あ?
Computer: 「そう。一人反逆者が明らかになっていれば、全てを彼の責任にでき
ます。
もっとも、あらゆる失敗を一人のせいにするのは無理な場合も多い
ので、反逆者の数が多ければ多いほど説得力が出るでしょう。逆に
言うと、あなたも他のPCからはそうした"スケープゴート"候補と
いう目で見られているわけですが」
PC: をを!
なんとなく私も、PARANOIA の本質が見えてきたような気がします。
Computer: 「よろしい、市民。
PARANOIA は、他のRPGとはかなり雰囲気が異なります。あなたの最
大の敵はモンスターでもエイリアンでもトラップでもありません。
あなたの正体を暴こうとする他のPCなのです。
PC同士で陰謀を巡らし、相手を陥れる、これこそ PARANOIA の楽し
さに他なりません」
PARANOIA紹介 第三回
PARANOIA 紹介の第三回目です。前回と今回は、PC について説明しています。
さて、PARANOIA の全体の調子はだいたいわかったと思います。ここからは、
もっと細かい説明。とりあえず、クローンとセキュリティ・クリアランス
(Security Clearance) について説明しましょう。
PC同士が陰謀を巡らし合う PARANOIA においては、PC の死亡率は極めて高く
なります。
死亡率の高いRPGというと「クトゥルフの呼び声」が有名です。クトゥルフで
は、死亡率が100%, すなわち全滅することも珍しくありません。しかし、PARANOIA
の死亡率はクトゥルフ以上です。150〜200%の死亡率も珍しくありません。
む、100%を超える死亡率というのが理解できませんか。ううむ、そうかもしら
ん。実は PARANOIA には「クローン」という概念があるのです。